TJAR応援(4)~No.13垣内康介、ついにアルプスを制覇!
・・前回の続き
井川の最終関門を難なくクリアし、尚も康介の独走は続いている。走る康介を車で前後しているが、車での先導や追従、増してやランでの併走はル-ル違反となり当然行っていない。単純な100㌔程度のウルトラマラソンでもそうだが、わざわざ高いお金を払ってまでも苦しむというこの種の大会は、普通の人からは中々理解されず、大概変態扱いされる。しかしこうも感じるが、そうだからこそ参加者は誰しも自分自身への納得の為、これらモラル(ル-ル)には特にこだわっている。たとえ神様以外絶対に誰も見ていないとした場合、仮にそこに自転車があっても誰も乗らないだろう。そんな簡単に自分を裏切るような人間は、そもそも大会に出ようと思うはずがない。康介もそのへんには十分こだわり、特に併走は頑なに拒んでいた。僕は数㌔先で康介を待ち、康介がやってくると声援を送る。康介に付きっ切りではない為、一度彼を見失ってしまった。しかし井川ダムで無事康介を発見し、事なきを得る。ダムのトンネル手前で珍しく休む康介。僕は駐車場からその姿を見守っていたが、目立ちまくりの僕の車に気付き、井川CPにいた大会スタッフが僕の元にやって来た。どうやら康介のGPSが起動していないようで、康介の元へ寄り電池で充電していた。今日は裏方を含めた色々な光景が見れ、僕も結構楽しめている。

康介には是非とも最後まで楽しんでほしかった

井川ダム到着
これは本当に大会なのか・・。そう思える程、レ-スは孤独との闘いだった。僕も頻繁に現れないよう注意しているし、トップを独走する康介をビデオやカメラに納める撮影スタッフも、長いロ-ドの間、ほとんど現れなかった。最後の難所、富士見峠への長い上りに差し掛かると、即座に走りから歩きに切り替えた。しかしその歩くスピ-ドも中々速い。峠中間辺りの青少年キャンプセンタ-分岐で待っていると、康介の従兄弟が東京から駆けつけてきた。話をしながらしばらく待っていたが、この後大阪へ足を延ばし、甲子園で大阪桐蔭の試合を見てくるのだと言う。ちなみにプロ注目の二刀流・根尾君と僕の親内は遠い親戚のようだ(親の実家と根尾家は道向かい)。従兄弟さんのスマホを見せてもらい、後続の状況を伺う。しばらく待ち、ようやく康介が現れた。思わぬ場所で従兄弟の応援を受け、驚いて奇声を発す康介。脚は動かしたまま僅かな談笑を楽しんだが、併走(併歩)を自ら拒み、従兄弟に見送られた。

たまに撮影スタッフが現れる
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東京から駆けつけた従兄弟一家と
富士見峠はかなり長く、僕は車で先回りしたが、ここを進む選手には辛いだろうなと安易に想像出来た。富士見峠には康介の奥さんや子供、父親や東京の従兄弟一家だけでなく、たくさんのギャラリ-がまだかまだかと康介の到着を待ち望んでいた。次第に寒くなってきたので、僕も上を羽織る。あまりにも到着しないので、康介の息子と歩いて峠を下り、偵察に行く。そこでもしばらく待つと、ついに康介の姿が見えてきた。自分の子供に対するその第一声からも、今の精神状態(余裕度)は見て取れた。そしてようやく長かった坂道を歩いて上り切り、家族らの待つ元へ。しかし驚いたことに康介はここでも脚を止めなかった。僕だったらここで間違いなく腰を下ろし荷を肩から下ろしそうだが、康介は一通りの声援を受け、脚を止めることなく直ぐに下りへと走り出した。この男すごい精神力だ・・。彼の強さに僕は衝撃を受けた。

富士見峠手前で長男と ※第一声は『宿題終わったか!』

富士見峠で待つ家族、親戚、多くのギャラリ- ※しかし康介はここすら素通り

結局このランザックはゴ-ルでのみ使用
富士見峠を越え、今度は長い下りに入る。康介は前日30分しか寝ていないらしく、猛烈な睡魔と闘っていた。毎日だいたい3時間の睡眠を取り、後半はそれよりも長くなるだろう・・。彼は大会前、僕にそう言っていた。しかしレ-スの思わぬ展開に触発されたのか、睡眠時間を削り、ほとんど睡眠無しでここまで進んできたのだ。真暗闇の孤独のロ-ド。街灯もなく、時折猿か何かの野生動物の不気味な奇声が山の奥から聞こえてくる。下りで脚は逝ってしまっているようで、立ち止まれないと言い結構辛そうだった。『ここで眠ってしまったら、お前の優勝はないぞ!』と発破をかけ、僕は先に峠を下り、横沢観光トイレへと向かい彼を待った。そこにはGPSを見て駆けつけた多くのギャラリ-がトップの到着を待ち待機していた。ここでも居合わせた誰かのスマホを見せてもらい、後続の状況を伺う。完全に後続は絶え、康介の独走状態は広がるばかりだった。しばらくして康介到着。ここには塩見小屋の写真をFBに投稿していた女性もおり、再会出来たことを喜んでいた。手早く用事を済ませ、ギャラリ-の何人かの要望に応えツ-ショット写真に収まり、康介は再び孤独の闇ロ-ドへと消えていった。

暗くなり運転が危ないので、応援カ-のメッセ-ジはここで全て撤去

オクシズの駅 横沢観光トイレ ※トップを一目見ようと集まった多くのギャラリ-

康介到着

トイレを済ませ

栄養ドリンクで補給
次第に家が見え始め、ついに孤独な森を完全に抜けた。集落があると大概住人が数人外に出て、路肩でトップの到着を待ってくれている。康介の脚はまだまだ動いており、未だに走り続けていることが信じられない。どんな練習をしたらそんなにも走れるんだ・・、今度彼にそう訊いてみたい。ただ僕が思うに、次第に応援者が増えたことで、おそらく康介は最高に気分が良かったのだろう。先程の峠の下り辺りからか、僕は康介のお父さんと行動を共にするようになっていた。お父さんはカメラの三脚を立て、息子の撮影に忙しそうだ(それに凄く嬉しそう)。そしていよいよラスト20㌔を切り、次第にトップの13番を待つ路肩駐車が目立ち始めてきた。これまでロ-ドの大半をたった一人で走り抜け、ここからゴ-ルまでは多くのギャラリ-に見守れながらのウィニングロ-ド。『どうよ康介、楽しいけ?』。そう訊いてみたら、微かな笑みを返してくれた。

転々と集落が現れ始め、次第にギャラリ-も増えてきた
どこからか康介の別の従兄弟2人も駆けつけていた。しかしこの男性どこかで見たことがあると思ったが、最近僕の従兄弟が家を建てたが、その時の大工さんだった。訊けば康介の従兄弟だと言う。えっ、ちょっと待てよ・・。確か僕の従兄弟とこの大工さんは親戚関係にあったはず。この大工さんは康介の従兄弟。・・ということはもしかして、僕と康介は親戚だったのか。意外な繋がりに親戚一同驚き、ここからは僕も身内の一人として、親戚の方々と最後まで行動を共にした。奥さんや子供は富士見峠以降見ておらず、既に大浜海岸へと向かっているようだ。ギャラリ-は一気に増え出し、やがて康介の勤務先の方々も現れた。今日仕事を終えてから応援に駆けつけたそうで、ゴ-ル後は飛騨へとんぼ返りするそうだ。
康介の姿を捉えようと撮影スタッフがどこからともなく出現。康介はコンビニに立ち寄り、腹が減ったとおにぎりを1個買っていた。コンビニで買い物をするその一部始終をドアの外から撮影班に捉えられ、その後ろには沢山のギャラリ-が押し寄せている。この頃から完全に康介は勝者の扱いを受け、ここからは初制覇の映像作りに向けての撮影が頻繁に行われるようになった。コイツ満更でもないだろうな・・と内心嫉妬しつつも、康介の脚取りは衰えるどころか逆に増してきた。先程富士見峠の長い上りに入る前だったか、康介はどこで誰に聞いたか(はたまた幻聴か)17番の猛追に怯えていた。実際は全くそんなことはなかったのだが、折角ペ-スも上げてくれたことだし、僕も余計なことは言わず、『17番は直ぐそこだ。ペ-スを落としたら抜かれるぞ!』と言っておいた。

腹が減ったとコンビニでおにぎり補給 ※ドアの外には撮影中のスタッフや多くの見物者
康介のお父さんは僕に気を遣ってくれ、パンやおにぎり等を差し入れてくれた。その後も康介の快走は衰えることなく、残り10㌔を切ったところのコンビニでの応援を最後に、3台の車で各々ゴ-ルへと向かった。康介のお父さん、従兄弟2人、叔父さん、そして僕。完全に僕も親族一員となっている。先程走る康介に『実はさ、俺とお前は親戚やったんや!』と告げると、『なに、そのカミングアウト!』と直ぐに返してくれた。ゴ-ルとなる大浜海岸には非常に沢山の観衆が詰めかけていた。初めて見るその光景に驚きながらも、ゴ-ル一つ手前の交差点まで行き、誰よりも手前で康介の到着を待つ。しかし中々姿を見せない。おかしいな、あのペ-スなら0時半にはゴ-ルするだろうと思っていたが、一体どうしたと言うんだ。あまりにも遅かったので、まさか別の道を通り既にゴ-ルしたのかと心配になり、ゴ-ルで待つ友人に2度ほど電話を入れた。信号の向こうに明かりが見える度にようやく来たかと安堵したが、その全ては自転車だった。
そしてついに明らかに上下に揺れるランナ-の明かりを察知。周りには康介を囲む他のライトもあり(撮影スタッフ)、さながら24時間テレビのマラソンランナ-のようだった。康介の正面に立ち、抱き合い祝福。『随分遅かったな!』と問いただしたら、静岡駅辺りで道に迷っていたそうだ。確かにあそこは分かりにくい。何だお前試走したんでなかったのかよ・・と内心思いながら、僕は全速力で海岸へと向かう。ヘッドライトをつけザックを背負い階段を駆け抜ける僕。康介と勘違いされるのも無理はない。フラッグの先に回り、ゴ-ルの瞬間を待った。康介は歩いて階段を上がり、沢山の観衆に祝福され、握手をしながらゆっくりと砂浜を歩いてきた。そしてフラッグを見上げ、手を差し伸べ、ついに長い旅に幕を閉じた。到着時刻が告げられ、スタッフに促され太平洋の海へと歩を進める。康介は海へと飛び込み、雄叫びを上げ、右手で軽くガッツポ-ズを決めた。新たなヒ-ロ-誕生の瞬間だった。やはりこの男、実に絵になる。その後はインタビュ-やら撮影会で、カメラのフラッシュは鳴り止まなかった。会社の祝福幕の前で撮影する時も、ちゃっかり会社の宣伝をするあたり、この男ただ者ではない。

ようやく現れた ※遅過ぎると思っていたが、静岡駅辺りで迷子になっていたらしい

この交差点を抜けたら

ついに大浜海岸

100人以上の大観衆の中

渾身のゴ-ル! ※写真は公式FBより
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新チャンピオン誕生

お前中々絵になるな

それに、何でそんなに受け答えが上手いんだ

康介一家 ※地元のラン友も堪らず駆けつけ、応援幕を持ってきてくれた

お父さんが一番嬉しそう

こっち見てる?

ちゃっかり勤務先もアピ-ル ※何故か従兄弟が棒持ちさせられている
おめでとう康介、良かったな。是が非でも康介を優勝させてやりたくて、僕も急遽飛騨から飛んできた。人の生涯でチャンスは一度有るか無いかだと僕は思う。人生のハイライト・・として挑んだ夢舞台で、康介はそのチャンスに巡り会った。だから二度と無いかもしれないこの大きなチャンスを絶対に逃してほしくないと、僕も自分のことのように感じていた。友人の生涯を懸けたハイライトは、僕のどんな用事にも勝る。今日は朝から車で走りっぱなしだった為、僕は『ガス欠』というもう一つの課題とも闘っていた。会場を後にし、無事ガソリンスタンドを見つけ、東名高速に乗り最初のSAで僕は力尽きた。眠くて運転が危うかったが、こんな場面で事故を起こして死ぬ訳にはいかない。そして3時、昨朝起床してから26時間にも及ぶ康介の応援ツア-は幕を閉じた。TJAR初制覇も、結局は旅の延長・・。どうせお前は格好をつけてそう言いたいのだろうが、その言葉を使うことは俺が許さん。だってそれは俺の名言やで。康介の喜びが僕の喜びであったのは昨日で終わり。今はあいつに対して悔しさしかない。ちくしょ康介の野郎、今に見とれ!
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