西鎌尾根(2)~千丈乗越で敢え無くエスケ-プ
・・前回の続き
双六小屋でしばしの休憩を終え、目の前の急登へと差しかかる。テラスで寛ぐ登山者の視線も感じていたので、そこそこ追い込んで力以上のものを出した。直ぐに息は切れ、脚は重くなってきた。それでも何とか早歩きはキ-プし、一気にピ-クまで登り詰める。上部稜線は風が吹き、涼しいというより、肌寒いくらいだった。堪らず薄手のウィンドジャケットを羽織る。ランニング用の超軽量のこの品は、畳むと拳ほどのサイズになる。従って、防寒対策とは言っても、効用は所詮その程度。防水機能もおそらくない。今日は東の槍穂高方面の眺望はないが、南の笠方面、更に北西の眺望がすこぶる良かった。薬師岳と鷲羽岳。共に白を基調とした特徴的な山容だが、見る角度によっては判別に迷うことがある。こうしてその2峰を並べて見ると、薬師はやはり緩やかで、鷲羽はずっしりと重い面構えが印象的だ。最初に現れた樅沢岳の山頂標識の所で、右へと這い松に開かれた踏み跡を追う。道が続いているので疑いはなかったが、正面の眼下に映る山小屋が気になり足を止めた。進む方角に山小屋は槍山荘までないはず。じゃ~あれは、何なんだ。周りの縦走路をよく観察すると、やはり僕は明後日の方向に進んでいた。眼下に見えていたのは鏡平山荘で、進路選択のミステイク。正規のル-トは、先程の山頂標識を越えて真っ直ぐ進むのだった。

いざ、縦走開始

白峰2山を見比べる ※薬師岳(左)、鷲羽岳(右)

ここは、樅沢岳

ここも、樅沢岳 ※どっちが本物?
本来、ここから至福のスカイランニングが始まるはずだった。迫り来る槍ヶ岳を目指し、吸い込まれるように駆けて行く。こんなにも贅沢なトレイルは、日本全国を探しても、そうは多くはないだろう。正に国内屈指の大山脈、その核心部である。しかし今日は鏡平以降、槍の雄姿が見れていない。既に期待感は薄く、せめて槍くらいは登っておこう・・と気持ちは切り替えている。しかしこの縦走路には、もう一つ見逃せない穴場が存在した。それは見る者を唖然とさせる、硫黄岳。見た目からインパクトがあるが、周囲に立ち込める硫黄臭が、何とも言えない心地良さを与えてくれる。焼岳や平湯温泉(ひらゆの森)を好む僕のような硫黄ファンには、たまらなく居心地がいい。いつの日か、その源まで下りてみたい気もする。

硫黄岳 ※源泉を探しに、いつかあの白い所まで行ってみたい

硫黄臭を鼻で嗅ぎ、走る

硫黄乗越

硫黄尾根はヤバそうだけど、こちらの平原はいい感じ

先週登った笠ヶ岳

笠の手前鞍部に鏡平山荘

左俣岳を振り返る ※飛騨側を巻いていたようで、山頂三角点に気付かず

笠の稜線とは違い、やはりこちらは『鎌(カマ)』って感じ
静かなこの西鎌の稜線は、たまにしか登山者を見かけない。向う者、来る者数人数組と交錯し、次第に鎌っぽくなってきた稜線を、焦らず、しかし急ぎ気味で進んでいく。天空から望まない雨粒が落ちてきた。僕を含むこの稜線が雲(ガス)の中に入ってしまったようで、霧雨の天候に一変。完全に辺り一帯は雲に飲み込まれ、視界は数m先しかない。霧雨程度と緩かった雨粒は、次第に本格的な雨へと変わってきた。下界とのギャップが嘘のようで、寒さも伴っている。やはり山は怖いな。雨の中で濡れながら、半日くらい、50kmくらいなら簡単に走り切る自信はある。そして、その覚悟を持って山に足を踏み入れている。しかし山を完全に舐めていたこの軽装備では、これ以上稜線に滞在するのは危ういと感じた。最終判断は千丈乗越で下そうと、急ぎ足で先へと進んだ。

鎖場はたいしたことないが

この天候が嫌だな ※寒いし、既に雨も降り出している
そして、その千丈乗越へと到着。ここは西鎌尾根の終盤で、槍山荘まではコ-スタイムで1時間半の距離。僕でだいたい45分くらい、急げば30分で辿り着けるような近い距離。しかし僕に迷いはなかった。槍が見えない以上、今回の縦走にあまり意義はない。槍登頂にも未練はないし、雨の山頂往復もネックになっていた。稜線に別れを告げ、早速飛騨沢への下りにかかる。体感温度はみるみると上がり、風が当たらない分、逆に蒸し暑さを感じるくらいとなった。この界隈には何度も来たことがあるが、このル-トを下るのは初めてのこと。濡れた登山道を慎重に下り、千丈分岐まで無事に下りてきた。ここまで来ればもう安心だ。後はズブ濡れになろうが、どうにでもなる。

槍ヶ岳は目前だったが・・

迷わず飛騨沢へエスケ-プ ※山は舐めてはかかれない

飛騨沢に向け急降下

奥丸山分岐

千丈分岐点
槍ヶ岳目指して登って来る登山者も、ちらほらと見かける。登山装備さえあれば大雨だろうが問題はないが、軽装で山に入っている以上、僕も慎重になっている(トレラングッズは何も持っていない)。その為、天候の急変に備え、逃げ道は常に確保している。黙々と走り続け、槍平に到着。腰を下ろし、特大おにぎりの2つ目に手を付ける。軽めの休憩を終え、重い腰を上げた。数週間前に転んで捻挫した、左足首が少し痛む気がする。走る分には支障はないが、常に違和感がある。幾つかの沢と出合い、ついに白出沢に到着。ここまで来れば、後は這ってでも帰れる。水場の水は出ていなかった。止めてあるのか、涸れているのかは分からない。最後の右俣林道は、軽快に腕を振り、走って飛ばした。穂高平を経て、新穂高。麓は高校生の登山部で溢れ、山の日以上に賑わっていた。長男岳登(高校登山部)も、今日から2泊3日の予定で上高地からこの山域に入っている。インタ-ハイの終わった盆明け最初の週末は、遥々聖地目指し、各県から登山部が合宿に訪れるのだ。

槍平小屋

水は出しっ放し

藤木レリ-フ

白出手前の水は出ていない
平成28年8月20日 天候晴れ後雨、僕
中尾 5:07
新穂高 5:24
小池新道入口 6:11
鏡平山荘 7:19、7:26
弓折乗越 7:50
双六小屋 8:19、8:30
樅沢岳(2755m) 8:45
硫黄乗越 9:05
左俣乗越 9:27
千丈乗越(撤退) 10:07
槍平小屋 11:00、11:07
白出沢出合 12:06
新穂高 12:43
中尾 12:58
標準コ-スタイム(新穂高発着で):16時間55分(昭文社・山と高原地図)
所要時間(新穂高発着で):7時間19分
距離(ト-タル):35.8 km
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