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穂乃花の山(1)

穂高岳。槍ヶ岳と並び飛騨山脈を代表する、言わずと知れた名峰である。この麓に暮らす僕等にとって毎日見上げている身近な山であると同時に、非常に遠い存在でもある。今から10年前の秋の夜、我が家に第3子が生まれた。僕もようやくその年、悲願の土地家屋調査士試験に合格。夢への階段を一歩上り始めることとなった。これまで僕は父親として5人の子供に各々の名前を授けてきたが、その命名に際し、人に語れる程の深い意味合いはない。第3子に僕は”穂乃花(ほのか)”と名付けた。穂高に咲く花・・、秋の稲穂・・。たぶんこんなこじ付けを建前とし、後は響きと思いつきで決めたんだと思う。そして穂乃花と名付けられた女の子は10年の時を経て、父親と穂高岳に登った。それもメジャ-で景観の良いお隣上高地からではなく、辛く厳しいだけの地元新穂高から重荷を背負い歩き通した事に、僕は深く感動している。



【山域】涸沢岳(3110m)、奥穂高岳(3190m)、※ジャンダルム(3163m)
【日時】平成23年9月23日
【天候】晴れ
【岳人】穂乃花(小4)、僕


1日目

新穂高駐車場(4:35)  前夜栃尾の荒神の湯にゆったりと浸かり、無数に散らばる星屑に山行の成功を祈る。新穂高にある登山者無料駐車場は、登山口に近い一番奥の段は当然の如く既に満杯。その他の段は意外と空いており、奥から2段目に駐車。穂乃花の体調の万全を期し、明日に備え早々と就寝。夜半隣に駐車した車のエンジン音がうるさく、何とも心地の悪い一夜となった。他人の事を考えて、エンジンくらい切って欲しいものだ。翌朝4時起床。昨晩空きが目立ったスペ-スもほぼ埋まり、出発する登山者の姿もちらほら。バス停まで川沿いの歩道を歩き、登山指導センタ-に登山届を提出。暗闇の右俣林道へと足を進める。
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新穂高登山指導センタ-

穂高平小屋(6:11、6:21)  薄暗い林道を黙々と歩き、近道を経て穂高平到着。既に日が昇り、辺りは明るくなっている。朝食のおにぎりを頬張り、再び長い林道歩きに向かう。ふと後方からエンジン音が響いてきた。年配の男性が原付バイクで、僕等の脇を颯爽と走り去って行く。小屋関係の人だろうか・・。しかしその男性の後には、小さな子供がしがみ付いていた。時間をおいて、今度は自転車が僕等の脇を過ぎ去って行く。随分楽をする登山者が多いようだが、僕等だってこんな林道は本当は歩きたくないのが本音だ。
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穂高平小屋
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右俣林道と砂防堰堤

白出小屋(7:13、7:27)  そしてようやく白出小屋、長い林道歩きが一先ず終わった。槍ヶ岳へは沢を渡りこのまま直進するが、穂高へはここから右へと折れる事になる。小屋前の広場では先程の原付、自転車組が準備を終え、穂高方面へと歩き始めた。祖父、父、男児の親子3代のようだ。長いだけの林道歩きではあったが、標高は500m稼げたから満更無駄ではない。今日は新穂高から穂高岳山荘まで、2000mの標高を登る事になる。
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ようやく山に入った

標高1830m(8:18、8:32)  笠ヶ岳を望むポイントの先、木の根に腰を下ろし休憩を取る。この白出からは過去に3度登っているが、かなり前の話でほとんど記憶にない。念の為、ここからは穂乃花にヘルメットを被らせる事にした。
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朝の陽射し

重太郎橋(8:56、9:14)  この白出コ-スは沢沿いの登山道ではあるが沢との高低差がかなりあり、重太郎橋に来て初めて沢水に触れる。持込んでいる計5.5ℓのタンクを全て満たし、洗面、歯磨きも済ます。ここから難所が続くようだ。連結した長いハシゴを登り、黒部の水平歩道を想わせる狭い崖道を慎重に進んで行く。鎖はあるが気は抜けない。穂乃花が誤って転倒しないよう、最大限の注意を払う。転倒=滑落=重大事故。恐ろしい事に山での算式は実に明確だ。
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白出沢
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重太郎橋の先、危険箇所が続く
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道幅の狭い通路  ※鎖はあるものの右下は崖、決して気は抜けない
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鉱石沢

標高2270m(10:11、10:26)  難所を無事通過し、水のない荷継沢を横断。いよいよ最後の長いステ-ジが始まった。白出小屋で見かけた子連れ一行と少し言葉を交わす。予想通り地元の方で、男児は小学校2年生、今夜は穂高岳山荘に泊まるそうな。
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荷継沢
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地獄の登りが待っているとはいざ知らず

標高2480m(11:30、11:45)  終わりの見えない石コロの密集地帯。急斜面に堆積した石コロは非常に不安定、足を置く場所を誤ると”グウゥォォ~!”という不気味な音が、静まり返った辺り一帯に響き渡る事になる。体の小さな穂乃花には歩き難さは一層増し、両手を使い這うように登っている。目印のペンキマ-クも時折見かけるが、ほとんど当てにはならない。結局は、自分で登り易いル-トを取りながら進むしかない。
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斜面はかなり不安定
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頑張れ穂乃花!
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唯一の残雪

標高2735m(12:58、13:10)  辛い登りはまだ尚続いている。いつも岳登に合わせて行程を組んでいる僕からすれば、穂乃花に合わせた今回の行程にはかなり余裕がある。しかし穂乃花には、今回の行程は明らかに辛い。穂乃花もそれを充分承知して、この山行に挑んでいる。高度が上がるにつれ、体感温度も下がってきた。度々上着を重ねていく。高山病にでもかかっているような若い男性が顔の表情を強烈に崩し、穂乃花の後ろにピッタリ張り付いている。ふとガスが切れ、稜線が見えた。まだまだ遠い。再び頑張って登る。やがて稜線コルの右にプロペラ、左には石積みのような構造物が見えてきた。小2の少年は僕等より一足先に稜線へと登り切っていた。なかなかの根性だ。そして穂乃花もついに稜線へと登り詰めた。重荷を背負い、新穂高から歩き切ったのである。
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辺りは深いガスに覆われ、標高が上がるにつれ肌寒くなる
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ついに登り切った

穂高岳山荘(15:23)  到着が遅れた為、テント場のほとんどは埋れていた。運良く空いていた一画に何はともあれテントを張り、山荘にてキャンプの受付を済ます。残っていた昼食のおにぎりを急いで平らげ、背後に聳える涸沢岳を往復。疲れている穂乃花は終始ご機嫌斜めだったがこれも3000m峰、折角だから登った方がいい。太陽の最後の輝きと共に、周囲を覆っていたガスは次第に流れてきた。奥穂高岳や前穂高岳、ジャンダルムまでもが顔を出す。テント設営時に舞っていた雹のような初雪も、すっかり消えてなくなっている。太陽と空や雲が織り出す夕日のショ-は、とても綺麗だった。テントの中でヘッドライトの明かりを灯し、ウィスキ-を飲み夕食を作る。冷えた握り飯は、ラ-メンの中に入れ雑炊にしてかき込んだ。楽しい夕食の一時も終わり、各々シュラフに潜り込む。直ぐに寝息を立ててきた穂乃花に対し、僕は寒くて体が震えとても眠るような状況ではない。靴下は2枚、ズボンは計4枚、上着は計5枚、毛糸帽子に、軍手は2枚、バラナシで買ったチャダル(マフラ-)も首に巻く。だが、これでも足りない。ザックの奥底から念の為に持参したカイロを取り出し、靴下の足底に入れてみる。足裏を重ねるように寒さを凌いだが、ただの気休めでしかなかった。
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涸沢岳
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穂高岳山荘とテント場  ※写真一番下右端の黄色いテントが僕等のモンベル
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前穂高岳
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シルエット
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夕暮れの色
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奥穂高岳
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ジャンダルム
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最後の輝き
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色を変える流れ雲
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遅い夕食  ※いつもラ-メンでゴメン


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