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天空尾根(2)~迫り来る、名峰・槍ヶ岳


・・前回の続き


ここは飛騨山脈南部、標高3000mに連なる天空尾根。夜明けを待ち新穂高を発った僕は、予定通り4時間でここまで登り上げてきた。これから槍へと向かう区間が、今回のメインロ-ド。頑張った者だけに与えられる最高のご褒美が、終点槍ヶ岳まで続くのだ。何度来ても飽き足らぬこの光景は、何度見ても抜群にかっこいい。急峻な穂高方面への縦走路とは異なり、槍方面へは緩やかな縦走路が延びている。ランナ-にとっての至福の時が、ここでは約束されている。日帰りで槍と南岳を巡るとした場合、絶対に南岳から槍ヶ岳を目指した方がいいと思う。槍を背に南岳に向かうのでは、何だか勿体ない気がしてならない。
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朽ちた南岳旧山頂標識  ※写真左から、中岳、大喰岳、槍ヶ岳
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標高3000mの天空トレイル
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最奥のゴ-ル目指し
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吸い込まれるように駆けて行く

中岳への登りは、見た目以上に辛かった。ここを軽快に走って登れるくらいの脚が欲しいが、立ち止まっては少し追い込み、又立ち止まっては少し追い込みの繰り返しだった。次第に大気の状況が変わり、唯一眺望が残っていた槍穂高の縦走路にもガスがかかり始めた。この界隈は何度も歩いているし、大抵の山は特定出来るので、登山道を歩く分には地図を見ることはない。太陽こそ真上に昇っていれど、標高3000mは下界のような猛暑とは無縁の世界。やはり暑い夏は、山でラン距離を稼いだ方が明らかに楽しいし、賢明だ。
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中岳(標高3084m)
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来た道を振り返る  ※既に長野県側は雲の中
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槍へと続く一本道

夏山シ-ズンだと言うのに、意外とひっそりとした登山者憧れの縦走路。連れ違う登山者達の風貌や井出達を見ても、やはり縦走登山はワンランク上の楽しみ方なのだと感じた。急なハシゴを下り、先程来前方に見えていた先行者に追いついた。その青年単独行は何やら登山道にカメラを向けている。何かと思いその先を見てみると、雷鳥の親子が目に入った。親雷鳥は砂浴びをし、羽根をバタバタさせては忙しく遊んでいる。そして岩陰には雷鳥のヒナが数羽(2羽か、それ以上)、可愛らしい姿で立ち尽くしていた。微笑ましいそんな光景に心底癒され、次の目的地へと向かう活力となった。そして、大喰(おおばみ)岳。知名度こそないが、本邦第10位の標高を誇っている。ここまで来れば、槍ヶ岳は直ぐそこ。迫り来る槍の穂先や肩に建つ槍ヶ岳山荘を強く意識し、飛騨乗越を経て、槍の肩までやって来た。
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たまに急なハシゴや
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可憐な花々
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砂浴びする親雷鳥の近くに
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ヒナが2羽
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大喰岳で寛ぐ登山者  ※槍の穂先が迫っている
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大喰岳(標高3101m)
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ここは飛騨乗越  ※帰りはここから下山する
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槍ヶ岳山荘と槍ヶ岳

木の杖を岩陰にデポし、穂先への登りにかかる。ここまでの縦走路の静けさとはうって変わり、さすがに槍ヶ岳には登山者が多い。こんなにも多くの登山者がこんな危険な頂きを目指すのだから、毎回事故が起きても不思議ではない。しかし意外と、ここでの事故は聞いたことがない。急な岩場に張り付いては、前の人が進むのを待つ。急ぎたくても急げない。進みたくても進めない。ここでの掟(おきて)は、誰もが安全第一に登頂し、無事山荘まで戻ってくること。自らの都合は度外視して、皆が事故の防止に積極的に努めなければならない。不意に落とした石コロは下の者の命を奪ってしまう。それに大切なことは、下に身を構える者も落石を常に意識しておかなければならない。青信号だって車は突っ込んでくるもんだ。
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いざ槍の穂先へ
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皆慎重に
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小槍  ※ここに登る命知らずのクライマ-もいる

肩から山頂への往復はゆったり1時間みているので、この区間は休憩と割り切っている。長いハシゴや鎖場等の難所が続くが、登りと下りで別々のル-トが設けられている為、すれ違いの渋滞は回避されている。高度感抜群の垂直ハシゴを最後に2つ越えた先が、槍ヶ岳の山頂となる。辺りはガスに覆われ、期待していた眺望は既にない。祠での写真撮影にも列が出来ており、遠越しに祠を数枚撮影。腰を下ろすことなく、下りの行列を避けるように、滞在時間数秒で下山にかかる。下がガスで見えないのも幸いし、恐怖心は薄れ、恐怖のハシゴ2連チャンは無難にクリア。本来僕は重度の高所恐怖症でもある。手摺があったとしても校舎の非常階段ですら息を呑む程に。そんな臆病者が好き好んで山に登るのだから、登山とは摩訶不思議なスポ-ツだ。
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順番待ちは休憩と割り切って  ※落石をもらわぬよう注意
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あのハシゴの先が
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槍ヶ岳(標高3180m)  ※槍山荘敷地は岐阜県だが、山頂は完全に長野県
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山頂は狭い  ※ガスで眺望もなく、直ぐに下山
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登り、下りのル-トが各々あり、大混雑は回避されている
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下山こそ慎重に

無事に肩まで下りてきた。当然の如くとは言え、安堵感には大きいものがある。大勢の登山客で賑わう槍ヶ岳山荘のテラスで少し休ませてもらう。妻に状況報告をしようとしたが、ソフトバンクの携帯(ガラケ-)は圏外でつながらなかった。おにぎりを頬張り、梅干しや赤カブで塩分も同時に補給。最近下界での僕は熱中症気味で情けないが、今日はその気配は感じていない。隣のテ-ブルからは流暢な英語が聞こえている。アジア系の女性2人はどこの国の人だろうか。手軽に登れる世界遺産・富士山のみならず、登山経験を要する北アルプスまでもが外国人の対象となってきたようだ。だから道標には英語や韓国語の併記がある訳だ。
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ほぉ~、14.4kmか・・  ※山での距離標識はあまり意味がない

飛騨乗越から飛騨沢への下りにかかる。やはりこちらを下りにして大正解だった。南岳新道は急過ぎて、下るにしても危なくて急げない。それとは対照的な飛騨沢を飛ばして下り、順調に高度を落としていく。今日は大学生らしき若者のパ-ティ-が多かった。岳登の高校登山部とは違い、引率の先生がいなかったから、おそらく大学生だろう。彼等はとても礼儀正しかった。後ろから大きな音を立てて駆け下りてくる僕の姿を一早く察してくれ、気持ちよく道を譲ってくれた。時々全く除けてくれない鈍感なパ-ティ-もいる。ここのとこトレランのことばかり悪く言われるが、それは一概には言えないと思う。山を共有する誰もが快く山旅を終えたい。山を登る人に悪い人はいない。走る人にも悪い人はいない。自ら茨の道を選んでいるのだから、通ずる部分は多い。
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槍へ向かう際、ここが最後の水場となる
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遥か昔からこの山を見守っている

昔岳登とよく歩いた、長い長い右俣林道。登山終盤に立ちはだかる最後の試練として、いい思い出は全くない。しかしランナ-となった今、僕にとってこの林道は既にコ-ス外の扱いである。槍平から白出沢までをラスト区間とし、その先の林道は惰性的なもの。白出沢まで何とか踏ん張り、いよいよ走る体勢に。未舗装の林道は不安定な石が大半を占め、非常に走り難いことは全くの想定外だった。しかしここは今回の行程で唯一本気で走れる区間。ここぞとばかりに追い込んで、精一杯腕を振った。余力充分のまま36分で林道を終え、山行は終了。今回の山行の位置付けは、白山白川郷ウルトラ(100㌔)に向けた走り込みの一環である。その為、標準コ-スタイム19時間25分のところ、その半分の目標を課していた。結果、目標は無難にクリア。出来れば9時間も切りたかったが、槍往復での渋滞が効いたようだ。しかし、山はいいもんだな!次回は双六から槍を目指してみようと思う。双六から見る槍の光景は、今回にも勝るほど素晴らしい。
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穂高平小屋
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新穂高登山指導センタ-







平成28年7月23日 天候晴れ、僕


新穂高 4:31
白出沢 5:22
槍平 6:25、6:42
南岳山荘 8:33
南岳(標高3032m) 8:38、8:46
中岳(3084m) 9:21
大喰岳(3101m) 9:45
槍ヶ岳山荘 10:01
槍ヶ岳(3180m) 10:28
槍ヶ岳山荘 10:43、10:53
槍平 12:08、12:16
白出沢 13:16
新穂高 13:52


標準コ-スタイム:19時間25分(昭文社・山と高原地図)
所要時間:9時間21分
距離:29.9 km
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